前回までのあらすじ

仲間になったアルヴィスはレックスやアゼルにアドバイスをしたりする
キュアンは気をつけろよとシグルドをたしなめる
皆思うところはあるけどとにかくエバンスに進軍だ

一応書いてるんですゆるして


流石にエバンスはヴェルダンの国境だけあり、防衛部隊が多く駐留していた。
それでもシグルド達は剣を操り巧みにあしらい、戦士たちを切り伏せる。
ひとつ、ふたつ、みっつと次々薙ぎ払ってはエバンスに猛進する。
その勢いに圧倒され、守っていた兵士たちも蜘蛛の子を散らすように逃げるばかりであった。
「逃さない…くらえ!」
ミデェールが矢が鋭く放ち、逃げ惑う戦士を次々仕留める。
霧散するヴェルダンの戦士たちの中を、シグルドは更に突き進む。
「シグルド、無茶はするな!」
随行していたキュアンが叫び、逃げおおせんとしていた兵士を手槍で貫いた。
「すまない、だがエーディンが心配なんだ。一刻も早く助けに行かなくては」
「気持ちはわかるが、焦りは禁物だ。目の前の敵に集中しろ」
シグルドは一瞬目を伏せ、うなずく。
キュアンもそれに応じて一つうなずき、再び共に馬を走らせた。
そうして騎士たちが先行するなか、アルヴィスはアゼルを伴い橋向こうから姿を表した。
「どうだ、やれるな?」
「…はい。兄上の習った通りに、やってみます」
アゼルが駆け出す。
魔導書を広げ、詠唱を始める。
(炎の魔法は詠唱の速さと、狙いを定めた時の鋭さが重要…!)
正面やや右に敵を捉える。
気づいた相手もすかさず身構えて避ける備えを取る。
だが、炎球はまさに矢のごとく襲いかかった。
避けきれずヴェルダンの兵士は炎に包まれる。
「まだだっ…!」
大きく振り抜いた右手を、更に戻すように振り抜く。
炎魔法の追撃が容赦なく敵を飲み込んだ。
崩折れる敵の姿を見て、アゼルはよしとうなずいた。
「出来た…!」
ぱっとアルヴィスの方を振り返った。
手ほどきを受けたアゼルがものにしているのを見て、アルヴィスもまたうなずいた。
アゼルには気づかれなかったが、アルヴィスもうっすらと満足そうな表情を浮かべていた。
「兄上、ありがとうございます…」
感謝の意をつぶやくと、アゼルは再びエバンスの兵士たちへと向き直した。
「…さて、私も動くとしよう」
ゆっくりと足を前に運びながら、細く詠唱を始める。
始めは静かだったのが、次第に足取りは強く、早くなる。
詠唱も、言葉が次第にはっきりとしてくる。
かざした手には炎と光が集まりだす。
「…く燃えし…聖戦士ファラの清き炎よ、我が手に集いて清く輝け。闇を祓い、敵を焦がさん!」
手に集まった炎熱がフワッと広がったと思えば、城の守りについていたヴェルダン兵を包みだす。
熱と光はまたたく間に一点に集中し、その中心にいた兵士は光に包まれ消し炭となった。
「…今のは…」
シグルドは眼前で起こったそれを、感覚で理解した。
聖戦士ファラの直系の血を引くものだけが使える神器、ファラフレイム。
ただの炎魔法のそれとは違う破壊力。
「これが、あの…」
瞬間、頭によぎった。
『夢』で感じたあの熱量と、全く同じあの感覚。
頭の中によぎったその光景に、シグルドは頭を抑えた。
シグルドの中に様々な感情が沸き起こる。
『夢』は、夢でなかったのか?そんな馬鹿なことが、と。
「シグルド様、どうなされました!」
ノイッシュが駆けつけた。
するとひどく驚いて心配そうに近寄る。
「体調が優れないのですか?無理をなさらず、我々に…」
「いや、大丈夫だ」
その言葉に説得力はまったくなかった。
青ざめたような血の気の引いた顔色に、定まらない目線。
勇猛果敢な彼らしくない、心に強い衝撃を受けたような表情だった。
「…やらなければならない、彼女が待ってる」
「…?ええ、エーディン公女が、きっと我々の助けを願っておいででしょう。ですから、シグルド様には無事であっていただかなくてはなりません、どうか無理はなさらずに」
「そうだな…」
胸のうちに浮かんでいたはるか遠いものを見据えるように、ヴェルダンの方角を向いてシグルドはつぶやいた。
「エーディンはきっと無事だろうが、とにかく急ごう。時間はあまりない」
シグルドの心ここにあらずといったその言葉は、ノイッシュにはなにかひどく切なく映った。
「…わかりました。ただ…何度も言いますが無理はしないでください。今はアルヴィス公もいらっしゃっています、あまりこのような姿をお見せになってはよろしくないでしょう」
「アルヴィス…あなたは…」
シグルドはアルヴィスの居る方向に顔を向けながら、意識半ばというような、上の空のように言葉をこぼした。
「…シグルド様?」
ノイッシュは怪訝な表情をあらわにした。
「行こう。すまないノイッシュ、心配をかける」
振り返ったシグルドは、なにか覚悟を決めたような、切なげとも憂いとも取れる表情を残していた。
それを見たノイッシュは言葉に詰まる。
今は、シグルドが無事に戦いを生き残れるよう力を尽くすしか無いと、心に決めるしか出来なかった。

数刻ののち、エバンス城から煙が上がった。
「残念だったな…あの女はここにはいねえよ、今頃は、ガンドルフ王子に…」
言いかけると、守将ゲラルドは、口から血をこぼしながら斃れた。
ゲラルドの言葉を受け、憎々しげに歯噛みするミデェール。
エバンスの城の中を捜索隊が駆け巡る。
だが、探している肝心のエーディンは見当たらない。
「シグルド様、城内くまなく探したのですがエーディン様の姿は見あたりません」
「…やはりか。ヴェルダンに連れ去られたんだろう、どこまでも追いかけるぞ」
「おそらくは…あっ、は、はい!」
オイフェは話の前半部分を聞いて同意しかけたところに、後半を聞いて慌てて返事を返した。
支度を始めようとしたところに、見慣れない人影がオイフェの目に映った。

「シグルド様、バーハラから国王の使者がこられました」
オイフェが一歩下がり、使者に引き合わせる。
「シグルド殿、このたびの戦い見事でありました。国王もいたく喜ばれそなたに王国聖騎士の称号を下された」
使者は騎士の勲章を渡す。
シグルドはそれを傅いて両手で受けとる。
「身にあまる光栄、陛下へのさらなる忠誠を誓います」
勲章を受け取ったあと、シグルドと使者は様々な軍略の話を受ける。
その様子をオイフェが見ていると、後ろから肩を指で叩かれた。
「あっ、ノイッシュ様。いかがなされましたか?」
「ちょっといいか」
後ろを親指で指し示す。うなずいて、シグルドに会釈しながらその場をあとにした。

しばらく歩いて、エバンスの城の詰所に連れられる。
周りに誰もいないことを確かめてから、オイフェを招いた。
「どうかなさったんですか?」
「ああ、いや…オイフェに聞いておいてもらいたい事があってな。俺たちはそれぞれで隊を率いてバラバラに動くこともある。その点、お前はずっとシグルド様のそばにいるだろうと思ってな」
「はい、そうです」
「先程、エバンスを制圧する前だが…シグルド様の様子が変だった」
「様子が変、ですか?」
オイフェは怪訝な表情を浮かべる。
「何か…ひどく悲しげな表情をされてな、ずっと遠くを見つめていた。なにかただならぬ気持ちの変化があったのかもしれないが、俺にはわからないことが多い。今後もそばにいるであろうオイフェには知っておいてもらいたくてな」
「悲しげな…わかりました。どれだけやれるかはわかりませんが…出来るだけシグルド様を支えられるように、がんばります」
ノイッシュは安心してうなずいた。
「ああ、頼む。用事はそれだけなんだが…そうだな、これから飯でもどうだ?」
「はい!ご一緒します」
そうして二人とも、笑顔を残しその場を後にした。

「…ふうん、シグルド様がねえ…んじゃま、俺も気合入れるしかねえな」
扉の向こう側では、アレクが聞き耳を立てていたことも露知らず。


次回に続く